みなさん、新年いかがお過ごしでしょうか。

法学部ブログも、蛯原先生が始められた法律学科主任ブログを2014年に法律学科ブログに移行してから4年半が経ちました。誤解や混乱を招かないように(入試情報など),一定期間を経過したものは公開しないことにしました。

他方,昔に書いた記事でも残しておいた方がよい(と勝手に勘違いしている)ものもあるので、ゆっくりペースで再掲していこうと思います。

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2016年3月11日 「法学部生に薦める本〜その1 法服の王国」

東日本大震災から5年たちました。犠牲になられた方々のご冥福をお祈りいたします。また被害に遭われた方々の生活とお気持ちが少しずつでも明るいものになっていくことを希望します。

昨日3月11日大学でも黙祷の時間があり、私たち法学部でも会議中でしたが、議事を止め全員で祈りを捧げました。
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さて、本日は、教員が法学部生に薦める本の第1回目(蛯原先生にも誰にも相談していないので第2回以降があるのかは定かではありません)です。

黒木亮『法服の王国 小説裁判官(上・下)』(岩波現代文庫)
  • ISBN-13: 978-4006022730
  • ISBN-13: 978-4006022747

「法服」とはご存じの通り、裁判官が法廷で身にまとう黒いガウンのことです↓。
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写真は白金キャンパス11号館の法廷教室 田村ゼミ(行政法)模擬裁判

物語の舞台は、昭和40年代から平成23年3月11日まで。序盤は3人の若者(法学部卒業1年目の司法試験受験生、法学部4年生、大学受験浪人)の視点が切り替わりながら、話は進みます。副題通り、裁判官という仕事がテーマです。

読んで驚いたのは、物語にたくさん出てくる事件・判決、政治家や最高裁裁判官の名前のほとんどが本物・実名なところ。上記の主人公的登場人物3名および彼らと関わる人物はフィクションですが、裁判や司法行政で起きた事件、政治の動きなどはほとんどが事実のようです。少なくとも仮想の判決は出てきていません。資料やインタビューを元に起きた事実を物語の登場人物を通してつないでいく、ドキュメンタリーに近い小説です。

法学部の授業で必ず勉強する判決もよく出てきて、判例百選や判例解説では表に出てこない、事件の時代的背景や判決に至った様々な事情が物語を通じて理解できます。その意味で、まずおすすめです。

話の展開の軸になっているのは、裁判官の独立への侵害として社会問題となった裁判官再任拒否・任官拒否問題と原子力発電所の設置・操業を争う裁判です。

皆さんが憲法の授業で勉強した「長沼ナイキ訴訟」をめぐる裁判所内部での動きが描かれています。有名な「平賀書簡」(司法行政上上位にいる裁判官が、事件を担当する裁判官に担当事件についての「参考」としてあるべき結論と理由付けを送った手紙)事件です。

原発を巡る裁判では安全性を巡る立証の過程がかなりの分量を割いて描かれています。特に伊方原発での証人尋問では、エリート裁判官の道を歩む主人公の一人を法務省付訟務検事(国が当事者となる裁判で国の代理人となる役職で、裁判官が法務省に異動しこの職につくことがある)として登場させ、緊迫感のある攻撃防御を表現しています。行政訴訟と民事訴訟の違い、民事訴訟の本案の訴えと仮処分の違いなどもわかりやすく説明されています。この手の説明が随所にあり、法律を勉強したことがない人でも話の流れやディテールを楽しめます。

出だしで著者自体がネタを振っているのでネタバレにはならないと思うのですが、物語の最後の山場は志賀原子力発電所訴訟(小説では日本海原子力発電所。立地場所、判決の裁判所・日付、判決内容も全く一緒)の金沢地方裁判所判決です。地方の裁判所を転々とする別の主人公がこの裁判の裁判長。

実際の志賀原発訴訟金沢地裁判決の裁判長は、退官後弁護士となり、今週水曜3月9日に出された、高浜原子力発電所運転停止の大津地裁仮処分決定の事件の原告弁護団団長を務められています。原発の運転停止を命じた初めての仮処分であり、関西電力が本案で争う姿勢を維持しながらも命令された4号機の運転停止を実施し、新聞やネットでも大きく報じられていたのでご存じだと思います。

なお、この方の経歴と小説の主人公の設定は一致しておらずいわゆる「モデル」ではないようです。小説の仮名の登場人物は、基本設定されたフィクションのようですが、司法行政の大物として登場する「弓削晃太郎」は、最高裁長官を務めた矢口洪一裁判官が「モデル」のようです。

この本、1月中旬に目黒の書店で偶然手に取って気まぐれで買ったのですが、帰りの電車で読み進めていくうちに、学生さんが読んだら勉強になるだろうなと思い、いつかブログの埋め草で紹介しようと思っていました。上記大津地裁仮処分決定と福島第一原子力発電所事故の一因となった3月11日から5年を迎えた今週がこの本をお薦めするのによいタイミングかと思い書いてみました。
お薦めします。

                       (M.A.)