本日大学センター試験第一日目でした。受験されたみなさん、ゆっくり休んでください。明日も受験される方は、早めに休んで体調を整えてください。くれぐれも本日受験分の自己採点などしないように。明日の試験に何の役にもたたない無駄な時間です。

さて、2015年夏の記事の再掲です。
来週1月25日から映画『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System: case 1 罪と罰』(リンク:公式サイト)が公開されます。元になったTVアニメについて紹介した記事です。

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先日環境関係の外部研究会で報告をして報告と議論が終わった後、「今日の話題は法学徒としては燃えますね」とある先生からお声をかけていただきました(この先生、偶然なのですが大学のサークルの大先輩です)。「法学徒」=法律を学ぶ学生=法学部生、私の時代でも死語でしたが、いい響きですね。
「法学徒」のみなさん、法学徒を目指す皆さんに、推薦アニメを。

「PSYCHO-PASS」 2012年に第一期、2014年に第二期がテレビで放映されました。第二期終了に合わせて劇場版も公開されました。

舞台は、2112年の日本。内容は刑事物です。未来ものですがモビルスーツも想像上の武器なども登場しません。テクノロジーも現在私達が知っている技術の延長線上にある程度のもの(自動走行システムとかドローンとか)で、そこら辺が妙にリアルです。

全く違っているのが社会システム。2020年に新自由主義が世界を席巻し、各国の政府は機能停止し経済力と武力という実力が支配し、社会秩序はあれまくっているという設定。その中で日本は幾つかの先進的テクノロジーを背景に鎖国を実施し、世界で唯一法治主義を保ち「理想的な」社会秩序が保たれている…。

何を書いてもネタバレになるので紹介が難しいのですが、法学徒の皆さんに身近なところで、このアニメのキーワードになっている「犯罪」概念についてだけちょっとお話ししましょう。

この社会ではシビュラシステムという無謬ないし誤りを自動補正する公平な判断システムにより実質上統治されていて(政治家も議会も役人もいるようですが、具体的な判断はシビュラシステムが行い、人間でないとできない作業を役人組織が実施しているようです)、このシステムで個人の精神的傾向を客観的に測定することが可能になっています。人の犯罪傾向も数値化(これをサイコパス=犯罪係数と呼んでいる)され測定可能で、この数字が一定水準を超えることが「犯罪」です。まだ具体的な犯罪行為を行っていなくても、測定・判断・執行器具である「ドミネーター」が「犯罪」を認定し、執行します。このドミネーターを捜査の現場で扱うのが「厚生省公安局」所属の刑事、監視官と執行官です(主な登場人物、第一期の主人公、第二期の主人公も刑事です)。なぜ「警察」「司法」の省庁でないかというと、「犯罪」は精神の病でもあるので国民の健康を管轄する「厚生省」に刑事がいます。

そうです。この社会では近代刑法の原則である「行為主義」はその役割を終え、主観主義刑法学の犯罪概念「人の精神の有り様」が犯罪であり、これを矯正し社会防衛を図るため、刑事責任システムは存在します。「人の精神の有り様」は裁判官には分からないので客観的に行った犯罪行為や状況から犯罪を捉えなければならないというのが主観主義新派刑法学の一つの矛盾だったのですが、「人の精神の有り様」をぶれなく、把握できるシステムがあるお陰で新派刑法学が貫徹可能なのです。因みにこの社会では裁判制度は執行停止状態になっています(民事法を学んでいる者としては民事裁判はどうなったのかが気になるところですが、出てきません)。
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(刑事物ですが、こんな法廷は出てきません、というより「ない」)
この物語、社会科学の基本的な文献の正確な理解の上に成り立っていて、マックス・ウェーバーやミッシェル・フーコーの著作の要点がうまく引用されており、その数は10を超えています。そして何よりこの物語の設定は絵空事ではなく、今の社会や政治システムの動きを考える上で重要な問題提起をしています。
紹介・解説すると全部ネタバレになるので残念です。

こう書いてしまうとつまらないように思えるかもしれませんが、何も考えずに見て「すごく面白い」です。毎回興奮できます。刑事物としても良くできています。総監督は「踊る捜査線」の監督として著名であり、脚本虚淵玄は「魔法少女まどか・マギカ」でその才能を見せつけた鬼才、エンターテインメントとして傑出しています。

法学徒のみなさんに是非見ていただきたいのは、第二期で成長した主人公「常守朱」が悩みながらあるべき社会を考え始めるところ。でも、お話は第一期から見て下さい。

人気なのでレンタルDVD屋さんにまだおいてあると思います。「旧作」になっていると思うのでお手軽に全編鑑賞できると思います。多くの学生さんは「知ってるよ」かもしれませんが、アニメにほとんど興味がないという学生さんに是非見ていただきたいです。皆さんの夏休みはまだまだ続くので、お暇なときにどうぞ。

         (M.A.)

記事を書いて3年半たった2019年、「2020年に新自由主義が世界を席巻し、各国の政府は機能停止し経済力と武力という実力が支配し、社会秩序はあれまくっているという設定」は、現在の社会階層分断と国際緊張をみると、このとき以上に笑えないリアリティを感じます。